お試しストーリー

「昨日助けていただいた猫です」

奇妙な被り物をした女子(おなご)が変なことを言っている。

「おら、そんな覚えねぇ」

「ええー!ほら、昨日、ここの桜の木の下で私がカラスにいじめられているところを助けてくれたじゃないですか」

「……ああ!たしかに白い子猫がつつかれていたからカラスを追い払ったけど……なんで知ってるんだ?」

「だから、あの時の白い子猫が私なんです」

おらは混乱した。白い子猫だと言っているが、どう見ても人間にしか見えない。

「それで、今日はお礼がしたくて来ました。これをどうぞ!」

そう言って、女子はどこからか灰色の毛の生えた物体を出してきた。

「ネズミ!」

「はい!がんばって捕ってきました!」

「いらん!」

「ええー!」

「おらがネズミ食うと思っていたのか?」

「食べない……ですか?」

「食べんわ!」

「そうですか……」

おらが首を横に振ると女子はしょんぼりと頭(こうべ)を垂れた。

「食べないけど……ここに置いていけ」

「ええー!いいんですか?」

「置いたら帰れ。そして、カラスや車とかに気をつけろよ」

「はい!ありがとうございます!」

ネズミを受け取らないと、ただでさえ小さな女子がさらに縮んでしまう気がして、縁側に置くように思わず妥協した。

「では、またね」

固まったネズミをおらの目の前に差し出すと、女子はくるっと背を向けて走り出した。

「あら、可愛い猫ちゃん」

女子と入れ違い様に娘が庭から現れた。

「ちょっと!お父さん、これ!ネズミじゃない!やだー」

娘は悲鳴のような声を出してネズミを嫌がった。まあ、そうだろうな。

あとで、庭の桜の木の下に埋めてやろう。

―――数年後。

「あら、また白猫ちゃんが来ているわ。ということは、やっぱり!」

お父さんの仏壇の前にまたネズミがあった。この猫はときどき縁側から仏間に忍び込んではまるでお供えをするようにネズミを置いていく。

そして、その後は決まって庭の桜の木でしばらく佇んで、

にゃおーん。にゃおおーん。

二言三言くらい鳴いた。

『もう、カラスはへっちゃらだよ。ネズミを捕るのも朝飯前だし、車にも気を付けているよ』

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