シュガーベルト~糖尿病と闘わない父~②

今しか生きない。

「煎餅どこだ?」

「ラーメン食べたい」

「タバコ買ってくる」

「焼酎ないぞ」

まだ自分の足で歩けた頃、父はとにかく探した。

お菓子、ラーメン、タバコ、酒。

特にお菓子は「糖尿病なんだからこれ以上ダメだよ」と止めようが、舌打ちをしながら棚など置いてありそうな所をひたすら漁った。隠していてもまるで犬の嗅覚があるかのように見つけてきた。食卓にあった味付け海苔を食べていた時もある。それは本人いわく、

「腹が減る」

のだそうだ。異様な食欲、糖尿病の症状のひとつに当てはまる。しかし、本人は病気だという現実から背いて、

「どうせ、もうすぐ死ぬんだ。糖尿病だからどうした。今しか生きない。それの何が悪い」

開き直った。まるで「あと5分でバスが来るんだ」という感覚で死を待っているようだが、父よ、今だからわかるかもしれない。

糖尿病はすぐ死ねる病気ではない。苦しみながら生きる病気じゃないか。

「今しか生きない」だなんて言っても、苦しい「今」をあと何年続ける?

脳梗塞を起こして立つのも困難になり、ベッドで一日のほとんどを過ごすようになってからは嗜好品を自分で調達できず、酒やタバコは断たれ、口数も少なくなった。それでも、たまに弱々しい声で、

「ラーメン食べたい」

そう言う時の目線は宙を泳いでいた。家族がいても、父の拠り所は別の方向にあるようだ。

「お父さん、あの時、もっとまじめに治療していれば今でもたまにならラーメン食べられたかもよ」

「うるさい。これでいいんだ」

これでいいんだ。

たぶん、本音ではない。しかし、反省もしてないだろう。それとも、強がりなのか。

「……」

父は私から、目を逸らした。

 

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