異国の匂い
この家が妙なのは外観だけではない。僕は檀野さんの家の中にいるはずなのに、まるで異国に来たような錯覚を覚えた。
玄関を上がって廊下へ進むと今までの利用者の家では見たことないアンティーク調の家具やインテリアに囲まれている。その中でも所々に立てかけてあるいろんな形をした杖が特に目についた。
杖といっても福祉用具としての実用品ではなく、彫刻を施した芸術的な木の杖から宝石と貴金属で装飾された富豪のシンボルのような杖まで揃えてある。どれもこれも高そうだ。
ひとつひとつ手にとってみたい気持ちもあるが、今は利用者様へのサービスを行うことに集中せねばならない。
この人もなんか、外国のモデルさんみたいだなぁ……。
明るいベージュ色のしなやかな髪を揺らす目の前の女性も、顔立ちやスタイルがどことなく日本人離れしていると思った。
ということは、檀野さんも外国人みたいな感じかな。
性別も知らないまだ見ぬ利用者を想像しているうちに、
「こちらです」
女性が振り向いて、ほほ笑んだ。
「この扉の向こうに父がいます。あなたが来るのを待っていました」
父。利用者は男性か。今まで訪問していたヘルパーが皆女性だったから拒否していたのだろうか。しかし、女性利用者が男性ヘルパーによる入浴介助を嫌がるケースは多いが、その逆は割と受け入れられるはず……まぁ、でも、同性介護のほうが落ち着く方なのかもしれない。
「まずは、父に会ってくれませんか?私も後から追いますので」
……?後から追うの意味がよくわからないけど、
「わかりました」
「サービスが終われば帰れますからね」
僕は扉を押すと、キイィと軋んだ音を立てて開いたと思った次の瞬間、
「!」
吸い込まれたかと思うぐらい体が中へと引き寄せられた。さらに、
バタンッ!
強引に扉を閉められる。しかも、暗い。真っ暗じゃないか。
「ちょっと!娘さん!」
驚いて思わず閉じた扉に呼びかけた。部屋を間違えたのではないかと。
「……」
返事がない。僕はドアノブを回した。だが、動かない。
えぇー!どうなってるの!?
僕は怖くなった。ドアを叩いてもう一度呼びかけてみる。
「娘さーん!開けてくださーい!」
「……なんじゃ」
答えた!……それにしては、渋い声だな。
パッ!
渋い声とともに周りが照明を点けたかのように明るくなった。
「なんじゃ!おぬしは!?」
よく聞くと渋い声は後ろからだった。もしかしたら、利用者の檀野さん?
僕はおそるおそる声のするほうへ首を巡らせた。
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