異世界でも職業:ヘルパーです。~利用者様は元・伝説のパーティー!?~③

川村さんと山木さん

「おはようございます」

昨夜の飲み会は男二人で早々に解散したせいか、二日酔いもない。コンディションは至って普通。そして、いつもどおり朝8時前にタイムカードを押した。

「升子くん、おはよう」

僕の職場である事業所は訪問介護ステーション「なつめ」と有料老人ホーム「いちじく」が併設されている。そのため、

「川村さん、お久しぶりです」

ときどき有料老人ホームのほうで勤務している人とも挨拶ぐらいは交わすことがある。

「いいね、若いって眩しいわ」

「何言ってるんですか、川村さんだって若いじゃないですか。あれ?今日は何かイベント?」

「山木さんと旅行に同行。もう少ししたら、部屋まで迎えに行こうと思っていたところ」

「えー!そんな、旅行の同行までできるんですか?」

「山木さんが特別。全部自費だからできるのよ」

「山木さんっていうのは入居している人?」

「そう。升子くんはまだ会ったことないか。まあ、あまり普段部屋から出ないからね」

「すごいなぁ……お金持っているとヘルパー付きの旅行もできるんだ」

僕と川村さんの会話の間に、背後からペタペタとスリッパで歩く足音が聞こえてきた。

「あ、山木さん、来ましたね」

川村さんが僕の後ろを見て、手を振る。

「おはようございます」

振り向くと、小柄で細いおばあちゃんがゆっくり近づいていた。旅行用の大きめのボストンバッグを小脇に抱えながらも、足取りはしっかりとしている。

「おはようございます。山木さん、今迎えに行こうと思ったのによくここまで来ましたね。バッグ重くない?忘れ物ないかちょっと確認するね」

川村さんは山木さんからボストンバッグを預かると近くのテーブルに置いて、ファスナーを開けた。それを見て、僕はそろそろ自分の持ち場へ向かうつもりだったが、

「財布、着替え、洗面道具……あら、シロちゃんもここに入ったのね」

シロちゃん?

思わず足を止め、シロちゃんの正体を確かめてしまった。

「にゃーん」

鳴いた。目で確かめるより早く、耳に入ってきた鳴き声が猫そのものだった。

猫?……の、ぬいぐるみ?

見えてきたのも猫そのものだが、動かない。顔や造形も作り物っぽい。いや、作り物だ。

「シロもつれていく」

山木さんがぬいぐるみの頭を撫でる。川村さんは「もちろん、そのつもりよ」と自然に答えた。

僕も、いつか、あんな風に寄り添えることが出来たら。いいのに。

でも、『理想の介護』なんて考えている場合じゃないんだよね。

昨夜の伊藤の言葉が割り込んで、僕の気持ちを複雑にした。

……行こう。

川村さんと山木さんに背中を向け、僕は先を急いだ。

 

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