私が知らなかった一日。前編

私が介護職を目指すために、介護職員初任者研修のカレッジへ行っていた時のこと。

講習の一環で、希望者は実際に事業所で一日実習体験ができるようになっていた。

「ぜひ、どんなものか」と軽い気持ちで申し込むと、体験してみたい行き先を問われた。

特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、グループホーム、訪問介護、デイサービス……その中からひとつ、選んだのは。

「おはようございます。今日一日、よろしくお願いいたします」

「ようこそ、こちらこそよろしくお願いします」

実習先での挨拶もそこそこに、私は辺りを見回した。

壁には折り紙で作られた桜の花と利用者様たちの笑顔の写真が飾られている。

みんな、楽しそうだな。

写真からでもなこなこしい(和やかな)雰囲気が伝わってくる。

机を見ると、名札が置いてあった。全部で10名ほどの席が決まっているようだ。

「今日いらっしゃる利用者様の席です。あと30分後には着くので、見ておいてください」

利用者様がここにいらっしゃる。

私が選んだ実習先はデイサービスだった。

実はこの時点で、すでに私の就職先が決まっていた。それが訪問介護だったので、実習でも先どりして訪問介護を選ぶこともできたが、

私にとって知らない一日を覗きたくなった。

特別養護老人ホームと介護老人保健施設は身内が入所しているため、何度も見舞いで訪れているうちに、何となくわかった気になっている。

デイサービスはよく送迎車は見かけるものの、内部こそ、まったく見たことなかった。見舞いに行くようなところでもなく、黙っていればきっと知らないままだっただろう。

 

続く。